EPUB 第35回 出版社のためのHTML5パブリッシング入門 * 【2014.01.15】


日時2014年01月15日(15:00~17:30)
開催場所飯田橋:研究社英語センター
参加費2,000円(税込) JEPA会員社は無料
参加者248人

出版社のためのHTML5パブリッシング入門  
HTML5でつくる「本」とEPUBは何が違うのか? 
http://design-zero.tv/esm/?p=248
 
【講師】 境 祐司 氏 
【概要】 
・仕様と実装の狭間で苦悩する制作者〜歴史は繰り返す 
・ウェブブラウザ上で(実装されていない)EPUB 3の機能を実行するという考え方 
・HTML5 の膨大なリソース、ソリューション、ウェブサービスを電子出版にも活かす 
・HTML5パブリッシングと少額課金、直販までの道のり 
・電子書籍フォーマット(EPUB)とは競合しない理由 
・出版社に知ってほしいイーブックデベロッパーの仕事 

●実装が進まない時代、ウェブ制作者の暴走 

W3Cによって最初のCSSが勧告されたのは1996年12月ですが、ウェブブラウザの実装が進まず、2004年頃までCSSはほとんど使われませんでした。当時のCSSのセミナーでも、「まだ実装されていませんが、CSSを使えばこのような表現が可能です」といった、実際には試せない状況が何年も続いていたのです。 
商業デザインの世界では、そのようなウェブの背景を理解していませんので、当時のデザイナーは、クライアントから「もっと見栄えをよくしろ」「印刷物と同じようにデザインしろ」と責め立てられ、やむなく、透明なGIFファイルを配置してマージンをつくったり、表組みのタグで段組みのレイアウトなどを表現するなど、トリッキーなテクニック(物理マークアップ)に手を染めていきます。現在、ウェブの標準ツールとして普及しているAdobe社(当時はMacromedia社)のDreamweaverも、この時代は「HTMLレイアウト」が売りの機能で、CSSはオプションでした。 
このようなウェブの発展を阻害するような状況を打破するため、1998年8月には、すでにWaSP(The Web Standards Project)が活動を開始していました。 
「CSSを実装したウェブブラウザが普及しない限り、ウェブ制作者の意識も変わらない」という危機感が強まり、WaSPはブラウザーベンダーに対して、独自拡張は控え、W3Cの仕様を実装するよう、訴え続けました。同時に、ウェブ制作者に対しても「印刷物とウェブの特性の違い」を理解してもらうための啓蒙活動を進めていたのです。 

●実装されていなくてもEPUB 3のすべての仕様を実行できる 

「近視眼的な行為をできるだけ避けて、将来の大きな利得を選択すべき」といくら訴えても、商業デザインの世界には響きません。「見た目の劣化」は品質の劣化とされ、ウェブを理解しているデザイナーでさえ、対症療法的な制作を強いられます。バッドノウハウであることを知っていても、クライアントの要求に応えることを優先してしまうわけです。 
現在、ウェブでは「レグレッシブエンハンスメント(Regressive Enhancement)」という開発アプローチが主流です。スクリプトを駆使し、古い環境に対しても力ずくで同等の機能に引き上げ、すべての閲覧環境で同じ見栄え、同じ機能を提供する考え方です。HTML5やCSS3の新しいプロパティをサポートしていないInternet Explorer 7や8などに対しても同じ機能を提供できるため、多くのサイトで利用されています。 
電子出版でも、このレグレッシブエンハンスメント的な解釈で制作する人たちが出てきました。ウェブブラウザー上であれば、ポリフィル(Polyfill)と呼ばれるJavaScriptのライブラリー群を使って、Media OverlaysなどのEPUB 3の機能を実行することができるため、リーディングシステムの実装を待たないで(もしくは実装までの暫定処置として)、進めてしまおうという考え方です。 
たしかに、GALAXY S4などのハイスペックなスマートフォンでは、リーディングシステム上の電子書籍なのか、ウェブブラウザー上で擬似的に表現されている電子書籍なのか、区別できないほどの高速処理を実現しているため、1つの選択肢として取り組む人たちが出てきてもおかしくありません。EPUBの独自拡張はやってはいけないが、仕様を守って内部処理するのであれば問題ないという解釈のようです。 
※個人的には線引きが必要だと考えており、慎重に判断すべきという立場ですが、クライアントから見栄えの統一などを要求される現状については理解しています。 

●HTML5で「本」をつくる意味、EPUBとの使い分け 
電子出版に影響するであろうレイアウトデザインに関するCSS3の新しい仕様がW3Cで策定中です。これらの仕様も、先行実装が進んでおり、ショーケース的な実践投入であれば、(キャンペーンなどの)ビジネスにも取り込めるようになってきました。また、オフライン・ファーストを掲げる「Packaged Web App」は、ネットワーク接続を必要としないHTML5のパッケージファイルとして配布でき、ストアで販売することもできるため、注目を集めています(現在は、Chrome、Firefox OS、Tizenなど)。 
現在のデジタル商業出版は、電子書籍フォーマットでつくられたパッケージファイルを、企業が提供するプラットフォーム(電子書籍ストア)を利用して、読者に届けるビジネスモデルが主流になっており、EPUB 3が事実上の標準として業界に支持されています。 
HTML5パブリッシングは、電子書籍フォーマットと競合するものではなく、(わかりやすい例で言えば)少額決済で運用されているウェブマガジンなどの進化につながるアプローチだと理解しています。読書データの解析やパーソナライズ、ソーシャルメディアで効果的に機能するアンバンドルの仕組みなど、ウェブでしか実現できないことを容易に取り込めることが利点だといえるかもしれません。 
実験的にでも(今から)HTML5パブリッシングに取り組むことで、結果的にEPUBの信頼性、永続性についての理解が深まり、オープン・クローズド、クラウド・ダウンロード、ペイドコンテンツ・サブスクリプションなど、電子出版ビジネスの次の一手を考えるきっかけになると考えています。 

【参考】 
開発アプローチについては、以下の電子書籍(「5. ウェブデザインの開発思想から学ぶ〜不毛な試行錯誤を避けるために」)で解説していますので、ご紹介いたします。 
http://www.design-zero.tv/Webcast/index.html#sec3 
HTML5パブリッシングのサンプルは以下のFacebookページで順次掲載しています。 
https://www.facebook.com/eBookStrategy 
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下川和男,
2014/01/15 5:08
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