第2章 EPUB日本語拡張仕様の策定

2.1 専門家チームの組織化

EPUBの仕様は、W3C(World Wide Web Consortium)で策定している次の世界標準仕様の全て、または一部を取り入れた形で制定されている。
  • HTML
  • CSS
  • SVG
EPUB仕様の大きな部位を占める、これらの世界標準仕様と独立した形でEPUB独自の日本語拡張仕様を追加することは、標準仕様としての不健全化を招くため、これら世界標準仕様との整合性や、将来仕様との関連を十分考慮し、またW3Cチームとも密接に連携して策定しなければならない。
このような理由から、EPUB日本語拡張仕様の策定チームを、W3Cの技術を熟知したメンバーを中心とした専門家チームとしての組織化を行った。
専門家チームの組織化後、イースト株式会社の作業メンバーは、専門家チームの指示により、EPUB日本語拡張仕様の策定業務に従事した。
組織化された専門家チームは、組み版、フォント、出版といったさまざまな分野に従事する方々からの意見を広く求め、また、W3Cの仕様策定チームとの密接な連携によりW3C仕様へ日本語拡張仕様組み込みの支援、ひいてはEPUB仕様への日本語関連仕様の組み込みを実現した。また、IDPF EGLS((International Digital Publishing Forum)への適用調整も行った。

2.2 調査

専門家チーム及びイースト株式会社作業メンバーは、EPUBで利用可能なHTML,CSS,SVGの各仕様について、どのような実装系が存在し、また、それぞれの実装系について、どのようなロードマップによってHTML,CSS,SVGのバージョンアップに対応していくのか、調査を行った。調査期間が限られていた為、調査対象となった実装系は以下の通りである。
  • Mozira Web ブラウザ エンジン
  • WebKit Web ブラウザエンジン
この2つの実装系のうち、Moziraエンジンについては、日本語拡張仕様部分を含む仕様についての実装は、調査当時のロードマップに含まれて居ない状態であったが、一方のWebKitについては、日本語拡張部分を含む仕様の実装について積極的な姿勢を持っていることが判明した。
アップル社が中心となって開発を行っているオープンソースプロジェクトであるWebKitは、iPhoneのiBooksや、Google Chrome ブラウザなどで広く利用されており、EPUB、或いは「電子出版」への影響が大変大きい。今回のプロジェクトでは、アップル社の開発チームが、EPUB日本語拡張仕様に関連する部分を含む仕様について、早期に実装してくれたことが、大きな成果につながった。WebKitのアップル社の開発チームには感謝している。我々も、epub_conform(テストデータ)やサンプルドキュメント、そして「実装ガイド」などで、支援することができた。

2.3 仕様検討

日本語拡張仕様を含むHTML5及びCSS3の仕様拡張については、専門家チームが主体となり、さまざまな分野のスペシャリストをメンバーとしたメーリングリストを作成し、スペシャリストらの貴重な意見を聞きつつ検討が行われた。メーリングリストには、W3C仕様策定チームもメンバーとして招待することにより、高度な議論を密接な体制にて行うことができた。

2.4 策定

仕様策定は、専門家チームが、IDPFが作成したメーリングリストをベースとして全世界のIDPFメンバーと共に議論を行い、必要に応じて電話会議及び実際のミーティングによって密度の高い議論を行い、問題点を順次解消していくことによって進められた。
仕様策定時にネックとなったのが、世界中に散らばるIDPFメンバーの居住地に起因するタイムゾーンの違いである。電話会議では、それぞれの居住地のタイムゾーンが適用されるため、全世界のメンバーが日勤体に会議参加することは不可能である。そのため、日本の専門家チームは、幾度と無く、深夜・早朝の会議出席を余儀なくされた。
他にも言語や文化の違いによる、仕様の一部に対する理解や重要度・必要性の感じ方の違いといった問題も発生したが、実際にフェイス・ツー・フェイスミーティングを行うこよによって、誤解や温度差の違いの違いを吸収することができた。フェイス・ツー・フェイスのミーティングには、コストや、時間といった物理的制約の問題もあるが、国際仕様において、各国間に仕様の必要性・重要度の違いがある場合には必要不可欠である、との感触も得ることができた。



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